Highway of Night (Act.12)
突然の告白から一晩が明けた朝の事。枕のとなりに置いているiPhoneがブーブーと振動が鳴る。ケイは振動の音で目が覚めた。
ケイ:ふぁあ・・・なんだぁ・・・?
体を起こしてからiPhoneを手に取るとロック画面にはLINEの通知で「リア充」という単語の嵐が舞っていた。トークの一覧を見ると「リア充」という単語がきもいくらいに埋め尽くされていた。マイと付き合い始めたという話が一晩で一気に広まったようだ。
ケイ:・・・オメェらなぁ・・・。
iPhoneを掴みながら再び寝転がった。それはケイの相手であるマイも同じだった。
マイ:・・・はぁ?
思わず起き上がりベットの横に置いてあったゴミ箱を蹴り飛ばした。中に入っていたカクテルの空き缶や煙草の空き箱などが散らかった。そんな時だ。マイのスマホに着信が入った。ケイからの通話だ。
ケイ:もしー?
マイ:おはー。
ケイ:後でさードライブに行かね?
マイ:・・・ドライブ?どこに?
ケイ:首都高とか。
マイ:また?・・・まーいいよ。
ケイ:ほんと?
マイ:ぢゃーあとでうちんちに迎えに来て。
ケイ:おーけー。ぢゃ。
マイ:はーい。
通話は切れた。寝起きで控えめな会話だった。マイはすぐにシャワーを浴び、髪にアウトバストリートメント付けてドライヤーで乾かし整髪する。ここまではスムーズに流れた、が。クローゼットを開けると問題はファッションである。
マイ:どれにすればいいかな・・・?
懸命に悩む。普段の私服はだいたいイカツめのファッションで決めていたマイだが普通の女の子の服くらいは持っている。けれども組み合わせが壁となる。
悩むうちに30分は経った。外からクラクションが聞こえる。窓から外の道路を見渡すと青と黒のツートンカラーのGDBFが停まっていた。ケイだ。「今日は鷹目の方を選んだんだ。」など思う余裕もなく、さっさと服を着る。黒のミニスカートに水色のデニムジャケットという組み合わせにしたのだ。バッグも持ち、急いで玄関から出て行きインプレッサの方へ駆ける。
マイ:待ったー?
助手席に座り込む。
ケイ:待ったわ笑
マイ:もー。こーゆー時わ全然?とか来たばっかだから、て言うんだよ?
ケイ:知らねーよ笑笑
マイ:ケイも暇だねー。
ケイ:まーな。てかお前もだろ
マイ:否定はできないね。
ケイ:お前のR33運転してみてーなぁ。
マイ:運転した事なかったけ?
ケイ:乗った事わあるけど運転した事わねーよ。
マイ:まぢ?ぢゃー今度運転させてあげるよ。
ケイ:まぢで?楽しみだわー笑
そんな話しながら走って行くとあっという間に首都高のC1内周りに入っていた。入った時はスムーズに進めたが、やはり休日だから進んで行くと渋滞で詰まる。
ケイ:うわー。
マイ:やばいね、これ。なんでー?
ケイ:さぁ。
マイがスマホで渋滞の情報を調べる。
マイ:走り屋による事故・・・だって!ケイ、気をつけて!
ケイ:オメェもR33乗りの走り屋だろーが。
列は徐々にゆっくりと進んで行く。するとクソポリのパトカーや救急車が見えてくる。それらが左側に停まっていて2車線のうちの半分も占領している。インプレッサは右側を走っているが、左側の車も合流してくる。
マイ:ここは譲り合いの精神だね♪
何故かマイはノリノリだった。狭い1車線を進んで行くと渋滞の原因が見える。フロントからボディの左側まで見事に大破した白のレクサスLFAだ。LFAの隣にはドライバーらしきLFAとお揃いの白の髪色で全力で髪が右に流れている銀色のスーツを着ている男が呆然と立っていた。
マイ:何あの髪型・・・きも笑 しかもファッションセンスない。
マイは女子目線の感想を言う。
ケイ:あれ?
一方のケイは大破したLFAに見覚えがあった。それはいつかの日に銀座で勝負をしたあのLFAだったのだ。確かにあれだとしてもビビりでテクニックも無かったから、ここで事故っても納得できる。
ケイ:俺も気をつけよっと・・・。
大破したLFAとこちらを指差すドライバーを眺めながら呟いた。
ーつづくー
Highway of Night (Act. 11)
千葉県のとある夢の国。人間より一回り大きいあのパンツ一丁のネズミが支配する遊園地(シマ)だ。そこの駐車場の入口をケイはゴールとし、インプレッサとフェラーリはレースをしていたが、「慣れ」より「スキル」の方の欠けが大きいゴリラが運転するフェラーリはストレートではパワーを出せてもコーナーの度に失速しまくりだった。それが決め手となりインプレッサは先にゴールに着いた。フェラーリが着いたのはその15分後である。既にケイだちは駐車場で待機していた。
アツコ:遅いぞ?
ゴリラ:だってぇ・・・
マイ:どんまい笑
ケイ:ゴリラ笑笑 ぢゃー行くぞー
マモル:おう
遊園地の中に入ると5人はゴリラとアツコの高校生活最後の青春を満喫した。かげがえのない大切な思い出となっただろう。
帰りの首都高湾岸線のことである。今度はフェラーリにゴリラが運転でマモルが助手席にアツコが後部座席に乗り、インプレッサにはケイとマイが乗っていた。フェラーリの車内ではヒップホップ系の曲が大音量で流れていた。
ゴリラ:あいつらラブラブだな。
マモル:まぢリア充だわー笑
アツコ:うん・・・。
ゴリラとマモルは若干妬みが顔に出ているのに対し、アツコは悲しそうにしていた。一方、インプレッサの車内はシーンとしていた。ケイの趣味であるヒップホップも、点けるのも悪くないラジオでさえも流れていない。ケイは真っ直ぐに向いて運転しているがマイはケイの横顔を切なく眺めていた。
マイ:あのさ・・・。
ケイ:え。何?
マイ:・・・付き合わない?
ケイは突然の一言に驚き、危うく前を走っていたトランクのケツを掘りそうになった。
マイ:あぶな・・・そんな驚くたっていいぢゃん・・・。
ケイ:わりぃ・・・。
マイ:で・・・返事わ・・・?
ケイは驚くあまりに顔が死んでいた。
ケイ:・・・まぢで言ってんの?
マイ:まぢだよ!あたしわケイの事が好きなの!分かる!?
マイは今言った発言に後悔し、顔を赤くして窓の方に向けた。
ケイ:まぁ・・・いいけど?
マイ:ホント!?やったー!
車内は通夜からソーラン節へとムードが逆転した。冗談抜きのリア充誕生である。
マイ:えへへへー
ケイ:なんだ、テメェ。きも。
ケイは顔を赤くするが運転に集中する。
マイ:だってー、ねー
早速マイはアツコにLINEで自慢する。フェラーリの車内は一変して驚きの空気が流れた。
アツコ:マイがケイに告ったんだってー
マモルとゴリラ:えええええええ!?
ーつづくー
Highway of Night (Act.10)
マモル、マイ、アツコ、ゴリラの4人は大手化粧品会社のお坊ちゃんマモルのコレクションの1台であるフェラーリFFで先に首都高の大黒ふ頭PAに来ていた。運転はゴリラにやらせたようだ。
マモル:オメェ運転やばいよ?マトモにできねーの?
マイ:あれわないわ・・・。
アツコ:うぇ、まぢ吐きそ。
アツコは口を抑えながらトイレへ直行した。
ゴリラ:だってフェラーリなんか慣れないし。
マイ:慣れとかその前にスキルがないんぢゃない?
マトモ:だね!笑笑
もはやゴリラは黙っていること以外に何もできないでボー、と立っていた。しばらくするとアツコが戻ってきた。
マイ:お帰りー!
アツコ:ただいまー!
マモルはスマホでLINEしていた。
マイ:ケイとLINEしてるのー?
マモル:うん。
マイ:どんな感ぢ?
マモルはマイにスマホのスクリーンを見せる。そこには、「もうすぐで着く」という文字があった。
マイ:へぇ、あっちゃん!ケイもうすぐだって。
アツコ:まぢー?まだかなー。
すると、遠くからボクサーサウンドが聞こえる。ケイのインプレッサだ。ケイはマモルのフェラーリの隣に停める。
ケイ:おまたせー
マイ:来たー!
アツコ:おお!
マモル:遅ぇよ!笑
ゴリラ:ケイー笑
インプレッサから降りたケイを4人は囲む。
マモル:ぢゃー行くか。
マイ:ぢゃーあたしケイのインプに乗るー
アツコ:あ、わたしもー。ゴリラの運転やだしー。
ゴリラ:オイ。
マモル:俺もこっち行くわ。ゴリラ、俺のフェラーリ事故らすなよ。
ゴリラ:マモルまで・・・。
3人はケイのインプレッサに乗り込んだ。ケイも乗り込みエンジンスタートさせる。
ケイ:オメェら乗ったら車重が重くなるだろーが。乗るんだったらダイエットくらいしとけよ。
マモル:うっせーよ。マイとあっちゃんが可哀想だろ。
マイ:充分軽いもん。
アツコ:そーだ、そーだ。
一方、ゴリラは1人寂しくフェラーリFFに乗り、エンジンスタートさせる。
ゴリラ:いじめだ・・・。
インプレッサが走り出すと続いてフェラーリも後を追い、首都高湾岸線に出る。すると、ケイはアクセルを強めた。
ケイ:ぢゃーな!ゴリラ!笑笑
マイ:イエーイ!笑笑
マモル:あばよ!笑笑
アツコ:笑笑
フェラーリは距離を離される。
ゴリラ:調子乗りやがって・・・バトルしようってか。
ケイ:は?笑笑 まぢ調子笑笑
インプレッサ対フェラーリのバトルが始まった。
ーつづくー
Highway of Night (Act. 9)
ムルシエラゴに怪しくゆっくりとインプレッサが近づいてくる。そのトランクが右へと幅寄せする。
組長:何をする気だ・・・。
徐々に道路の端へと導かれる。すると、ガリガリと擦れる音が鳴り響く。右の前輪が溝に嵌ってしまったのだ。速度は強引に殺される。左に曲がるコーナーが迫る。しかし、右に持っていかれ曲がりに逆らってしまい、ついには右の後輪までもが嵌ってしまう。もはや立て直す事は不可能。ムルシエラゴは完全に止まった。ケイとレンはレンの幼馴染ミカを助け出すレースという名の救出活動に成功したのである。
ムルシエラゴの視点からインプレッサとS15のトランクが小さくなっていく。コックピットは殺気で渦巻いていた。
組長:いつか、殺してやる・・・。
長尾峠を下りてすぐにある緑とオレンジのストライプのあのコンビニの駐車場で3人は溜まっていた。
ミカ:あの、ありがとうございました!
レン:オメェのおかげで助かったわ。ありがと。
2人はケイに向かって頭を下げた。ケイはカーボンボンネットに座りながら後頭部に手を当てた。
ケイ:照れくさいなー。笑
レン:あ、そうだ。LINE交換しようぜ。
レンはスマホを取り出す。
ケイ:おけー。
ケイ:あ、やっべ。
慌ててインプレッサに乗り込み、エンジンスタートさせる。
レン:どした?
ケイ:この後、ダチと遊ぶんだよ。
レン:まぢか。
ケイ:ああ、ぢゃーな!
そう言い残すと物凄い勢いで飛ばしてドリフトしまがら道路に侵入して消えていった。
ーつづくー
Highway of Night (Act.8)
ハイエースに遅れて1台の黒塗りの車も高いエンジン音を鳴らしながらやって来る。ランボルギーニのムルシエラゴだ。おそらく組のお偉いさんだろう。ガルウイングが開くとチンピラやヤーサンがムルシエラゴの方に駆けつけ、整列する。
「お疲れ様です!!」
皆同時に頭を60度の角度で下げる。ムルシエラゴの中からはシルバーのスーツをきちんとしっかりキメた眉毛のないツヤツヤしたオールバックの男が現れた。
「楽しみだなぁ、オイ。」
ムルシエラゴの男の一番近くに立っているヤーサンが答える。
「はい!」
ケイは窓を開けてレンに問う。
ケイ:あのムルシエラゴの奴わ誰なんだよ。」
レンも窓を開ける。
レン:組長だよ。
ケイ:は?なんでそんなのが来てんだよ。あのハイエースに乗ってるコが関係あんの?
レン:・・・ああ、あいつわ俺の幼馴染。家が組に借金してて人質で捕まったんだ。
ケイ:まぢか。
レン:んでミカを人質にこのバトルを企画された。
ケイ:・・・オメェわあの幼馴染を助けてーの?
レン:ああ、あいつわ俺の大事な人なんだよ・・・!でも負けたら手を出すって・・・。
ケイ:・・・そのミカっつーの?助けるぞ。
レン:は?
ケイ:バトルなんて無し。用わミカを助けれられればいいんだろ。さっさと終わらせよーぜ。
レン:まぢで言ってんの?
ケイ:殴り込みだ。
チンピラA:おいコラァ、何か用あんのk・・・
ケイは腹パンを喰らわせて一撃で黙らす。それに気付いた他のチンピラやヤーサンもすぐに反応し殴りに掛かってくるが、ケイは下手な殴りを避けてカウンター、続いて後ろから殴ろうとしてくるが、それよりも早いスピードで振り向きアッパーを喰らわす。チンピラ共を徐々に片付けていく。下手なチンピラなんて精々こんなものだ。そしてハイエースからミカを救出し、レンの乗るS15の助手席に突っ込む。
ケイ:さっさとヅラかるぞ!
レン:おう!
その時、S15のテールライトが割れた。組長が拳銃で発砲したのだ。
組長:テメェ調子乗んじゃねぇぞ。
眉毛がなくて表情のない細い目がこちらを睨む。ケイは思わずビビり、迷った。しかし、レンはS15をバックさせ、ボスに向けて反撃する。組長は避けようと横に転がる。その隙にS15は急発進する。ケイも急いでインプレッサに乗り込みS15に続く。一歩遅れた組長もムルシエラゴに乗り込み追う。
長尾峠はクネクネしている。テクニックがなければ突破できない。無免許のレンが運転するS15はすぐに走り屋ケイのインプレッサに抜かされる。抜かされて後ろを走るS15を組長のムルシエラゴが狙う。テクニックも性能もムルシエラゴの方が上だ。すぐに距離を詰められる。組長はまたしても発砲する。S15のリアガラスがひび割れた。
ミカ:んぅぅぅぅぅ!!
まだガムテープで口を塞がれているミカが泣き叫ぶ。
レン:大丈夫、なんとかなる。
レンの一声でミカは落ち着きを取り戻す。しかし、S15は完全にロックオンされた。ケイはそれに気付きブレーキを踏みS15に近づく。
ケイはクネクネしたコーナーを無免許のレンに合わせながらゆっくり抜けながら考えていた。どうすれば、ムルシエラゴの足を引っ張れるかを。長尾峠には道端に深い溝がある。下手に嵌ったらレッカー呼ぶしかなくなる。
ケイ:あ、これだわ。
ケイは閃いた。
ーつづくー
Highway of Night (Act.7)
季節が夏だったら朝焼けが空の向こうに広がっている時刻にケイはベットの上で起き上がった。起きてすぐにシャワーを浴び、バスタオルで髪や身体の水分を拭き取り、ドライヤーやヘアアイロンをかける。そして、ハードワックスを付けたらハードスプレーを噴射。電子レンジに入れっぱなしにしていたアジの開きを食い、コーラを飲んだら、ガレージへ向かいGDBFの方のインプレッサに乗り込む。起床してから30分が経った。早速エンジンに火を点ける。
ケイのGDBFはガソリンと改造以外に維持費が掛からないため外見にも金が掛けられる。
RAYSの銀色でピカピカなホイールにAQUAのフルエアロ、Varisのカーボンボンネットとカーボンウイング、そしてカーボントランクも着いている。ミラーもカーボンだ。マフラーはHKSの焼き入れチタンマフラー。普通だったらファッションだけで100万円以上のコストはするだろう。しかし、ケイはそんな真似はしない。わざわざ地元のポンコツ屋をあちこち当たるのだ。そうすると激安でパーツを手に入れられる。エンジンや足回りのパーツの半分もポンコツ屋から来ている。こうやってコストを抑えられるのだ。
箱根は霧がよく発生する。ヘッドライトで灯しても霧で視界は良くない。長尾峠のクネクネしたコーナーをいくつか抜けると土産屋が見えてくる。そこの駐車場にあの青いS15と「連れ」がセルシオやISFが停まっていた。改めてそのS15を見るとBOMEXのエアロも着けていてシートもBRIDEのものに替えている。この車も相当なコストが掛かっている。
「連れ」がレンを囲んでいた。
連れA:あれが浜田ケイだな。
連れB:オメェ勝てよ。勝たなかったら・・・あの娘は戻らないぞ。
連れC:ミカちゃんがどうなってもいいのぉ?
レン:・・・勝てばいいんすか。
連れB:分かってんじゃねーか。
連れC:頑張れよ!
と言って、レンの肩を叩く。
レン:・・・。
事の原因を思い出していた。大切な幼馴染のミカの事だ・・・そいつの家は借金を抱えていた。ある日、チンピラ数人がミカを誘拐しようとした。ミカは必死に抵抗する。たまたま家の前を通りかかったレンは止めに入った。しかし、チンピラと言っても喧嘩にはある程度慣れている。それが数人に対し、高校生1人など無理に近い。レンが敵う訳なかった。ミカはレンの名前を何度も叫ぶが、チンピラは腹パンを喰らわせ黙らせる。結局、何もできなかったのだ。
ある日、組の事務所に藁にもすがる思いで突っ込んだ。当然、事務所なんてチンピラやヤーサンが大勢で溜まっているから敵う訳もなかった。そしてレンも捕まり、身体をロープで縛られチンピラに囲まれた。そんな時に組の中では上の立場に立ってそうなヤーサンが言った。
ヤーサン:ミカちゃんを返して欲しければ俺らを楽しませろや。
レン:はぁ?
ヤーサン:そうだな・・・公道のレースはどうだ。
チンピラA:それは面白そうっすね!
チンピラB:いいですね〜!
ヤーサン:ははは、いいな?
レン:・・・ミカは返すんだろうな。
ヤーサン:約束しよう。
チンピラA:公道レースと言えば、ここら辺では浜田圭っていう走り屋が速いらしいっすよ。
ヤーサン:じゃーそいつと対決だ。お前さんの車はこっちが用意してやる。それで決まりだ。
レン:免許持ってねーし・・・。
ヤーサン:んなもん無免でもいいだろーが!!
そう叫ぶとレンの顔を蹴り飛ばした。
そう、これは走り屋としてプライドを賭けたバトルなどではない。少しでも大切な幼馴染を守る為に機嫌をとる為に藁にもすがる思いで仕掛けたもはや無理ゲーなのだ。
ケイは土産屋の駐車場に停め、車から降りてレンのもとへ向かう。
ケイ:(こいつら連れか?セルシオとかISFとか乗ってるみてーだけど、いかついな。笑)
レン:・・・始めるぞ。
- ケイ:おう。
一方、チンピラは通話している。
チンピラA:お疲れ様です・・・はい、土産屋でお待ちします。失礼します。
通話が切れるとジャケットの内ポケットにスマホをしまう。
チンピラB:どうよ。
チンピラA:順調だ。
チンピラC:うししし・・・。
ケイ:(何だ、あいつら。なんか、おかしい。まぢで。)
ケイはそう思いながらチンピラが引いたスタートラインの前に車を移動させる。レンも同じく移動させるが、なかなか上手くラインの前に停められない。
チンピラA:馬鹿か!テメェ!!
何度か繰り返すとやっと停められた。
ケイ:(こいつわ初心者かよ。)
その時、遠くの方から1台のワンボックスカーが来る。車種はハイエースのようだ。そのハイエースはゆっくりと土産屋の駐車場に入りスライドドアがこちらに向かうように丁寧に停まった。すると、スライドドアが開く。中にはロープで手足を縛られ、口はガムテープで封じられた1人の少女が居た。レンはそれに反応した。
レン:ミカ!!
ケイは確信した。
ケイ:(やっぱ、これわまぢでおかしい!)
ーつづくー
Highway of Night (Act.6)
一方、卒業会場の体育館ではクソゴリラとアツコを含む卒業生一同が席に座っていた。卒業式なのだから中には涙を流す者もいるだろう。今、クソゴリラは堪え切れずに鼻水まで垂らして豪快に泣いている。周りの席の者はドン引きだ。遠くの席からはアツコとその周りの席の笑い声が聞こえる。
アツコ:ゴリラまぢウケる笑笑笑
ぎゃははははは笑笑笑
周りの席A:うわー笑笑笑
あれわきも笑笑笑
周りの席B:ゴリラ、号泣。笑笑笑
アツコも豪快に笑っていた。
ゲラゲラ笑っているうちに時は流れて気づけば、卒業式は校歌合唱も終え、卒業証書授与が始まっていた。
アツコ:まだ卒業したくなーい。
周りの席A:ねー。
周りの席B:早いねー。
卒業生は出席番号順に徐々に呼ばれていく。そして、ゴリラの名前が呼ばれた。
ゴリラ:ふぁぁぁぁぁあいッ!!
やはり涙は抑え切れず、相変わらずの豪快さのきもいツラで叫んだ。もはや体育館中の卒業生が我慢の限界だった。
校長から卒業証書が渡される。そして、こちらにそのきもいツラを向ける。
「ぷっ、きゃぁぁぁぁぁははははははははは笑笑笑」
耐え切れず卒業生一同は奇声をあげて爆笑する。
アツコ:あーはははははははは笑笑笑
周りのA:まぢきもーー笑笑笑
周りのB:これわひどい笑笑笑
卒業式の重い空気を笑いの舞でブッ飛ばしたゴリラはある意味イイ仕事をした。
あっという間に時は流れ、いま5人は打ち上げで近所のショッピングモール「Nario」のフードコートに他の卒業生と共に溜まっていた。
ケイ:オメェらだけ卒業とかずりーわ。
アツコ:一気飲み見られる方が悪いでしょ。
マイ:はぁ・・・あたしたちさけ留年かぁ。
マモル:クソが。
ゴリラ:まーまー笑
元気だせよ。
4人:オメェわ黙れ。
ゴリラ:・・・ウィッス。
ケイ:んで明日わ長尾峠でS15とバトル。
アツコ:そのレンってのわ何者?
ケイ:ハヤブサ工業っつってたけどな。
ゴリラ:ハヤブサってあの車のパーツで有名な?
ケイ:そうだよ。
マイ:・・・あいつ、まぢきもい。
アツコ:どーした?
マモル:あートラウマ笑
アツコ:でも明日、間に合う?
ゴリラ:大丈夫だろうな?
ケイ:あーそれわ問題ねーよ。でも、もし間に合わなかったら先行ってて。
マモル:お、おう。
アツコ:うん・・・。
ケイ:ぢゃー呑むか笑
5人は一般人も居る中、堂々と酒を呑み始めた。
ケイ:ストレートわきついな。ウォッカわ。
ウォッカの強いアルコールで舌が痺れた。そして、その香りが口の中を激しく舞う。
マイ:ウォッカわ割らないきゃ、だね♪
マモル:だな。
Narioの中のゲーセンとか服屋とか寄って、Narioが閉店すれば、近くのコンビニへ移動してダチと語って、気付けば0時。ケイは長尾峠のバトルに備え、打ち上げを早抜けする。ひとり丸目インプで帰宅する。酒が効いているから飲酒運転だ。しかし、飲酒運転なんてもはや日常で慣れているため問題ない。帰宅するとガレージにはインプが2台並ぶ。もう1台の方はGDBF、鷹目インプとも言う。こっちは駆動方式を変更してFR化、エンジンは600馬力とパワーがあるため首都高を走る時には使っている。一方の丸目インプの方はそのまんまの4WDで350馬力だ。峠を攻める時はコースによって使い分ける。
ケイ:明日わ高速道路も走るし、こっち使おっと。
鷹目インプの方を向いてひとり呟いた。そして、ガレージのシャッターを閉める。
ーつづくー