Highway of Night (Act.15)

 湾岸線はストレートが長く占めている。ここでは加速が見方する。軽さこそは軽量化しまくりのインプレッサが勝っても、パワーの話になると水平方向4気筒DOHCではV型10気筒DOHCカレラGTが相手だと普通に考えれば発生するパワーにかなり差があってキツイ。だが、1回気を許した少女はブースト圧を立て直すのにわずかなタイムロスをし、どんどん距離を離されていく。
 インプレッサは峠で鍛えられたライン取りで3車線を占領しながら走る大型トラック(バイロン)の群れをわずかな隙を見つけてはハイスピードで縫うように抜かす。

少女:並みのレベルじゃないわね・・・。

同じくラインを真似しながら縫うように走るが、群れを抜けた時にはインプレッサが10円玉の大きさに見えた。けれども、パワーはこちらが勝っているから離された距離を縮めていく。

少女:危ないなぁ。このインプは。

今度こそは余裕を見せずに本気でアクセルを踏み続ける。

マイ:ストレートが続いてるから危ないよ!

ケイの耳元で慌てて叫ぶ。

ケイ:うっせーな。んなもん分かってるわ!
マイ:車の差で勝とうとするなんてキタナイなぁ。

マイは喧嘩もタイマンでやる公平的な精神なためストレートでアクセル踏んだだけで抜かそうとするカレラGTをディスる。しかし、ケイは不快にさせる愚痴に聞こえてイラついた。

ケイ:ちょっと黙れ。
マイ:ご、ごめん・・・。

ストレートが長く続く為、ついにはインプレッサの真横に並んだ。中に乗っている少女はこちらに視線を送る。マイも敵視して喧嘩売るように睨み付ける。

ケイ:止めろよ・・・。

少女はあんな女に対して、心の中で軽蔑した。

少女:(なーに、アレ。田舎のヤンキーかしら笑笑)

そんな事を思っていたら、ついつい笑ってしまう。それを見た短気なマイはブチキレた。

マイ:嗚呼ァァァァァァァ!!ブッ殺す!!あのブスまぢしね!!
ケイ:・・・。

ケイはキレたマイを無視して黙ってバトルに集中する。それでも、カレラGTに抜かれる。

マイ:車がいいからっつって調子乗んぢゃねーぞ!コラァ!!

 ストレートは続くが、輸入品を運ぶ大型トラックや安全運転を心掛ける一般車のシケインも連続で続く。少女は大きくシケインを避ける度に300キロオーバーで走るカレラGTのアクセルを緩めてしまう。一方のケイはアクセル全開で突っ込みハンドルをなるべく曲げず、ほぼ真っ直ぐに突破する。慣れはこちらが上のようだ。すると、カレラGTとの距離が再び縮まってくる。少女はこれ以上踏んでも馬力の出ないアクセルペダルに余計に力を入れて踏む。
 既に両者はトップギア。これ以上の加速も互いに限界だ。カレラGTのトップスピードでまたインプレッサは置いていかれる。少女は冷や汗が止まらない。回転数はレッドゾーンの限界に留まったままで自らの首を締める。しかし、そんな事など気にしなかった。ついに離す為に慌て過ぎたカレラGTのV10は吐血する。エンジンの爆発とともにラジエーターも破壊され飛び散ったオイルは後ろのインプレッサのフロントガラスにゲリラ豪雨の様に降り注ぐ。

ケイ:!?
マイ:え?

爆発でリアのサスペンションも折れ、自由なコントロールができないカーボンファイバーの塊と化したカレラGTは強引に左に持っていかれる。少女はブレーキを踏むが、もう遅い。かなりのスピードでガードレールを強く擦り、ボディの左半分が破壊される。かなりの衝突で速度は殺される。インプレッサは事故しているカレラGTを抜かすがブレーキを踏み、様子を見る為にカレラGTの50メートル先の道端に停車させる。そしてバックで大破したカレラGTの目の前に寄せる。ケイとマイは急いで降りてカレラGTのドアへ向かう。ケイが右側のドアを開けようとするが、開かない。

ケイ:割るぞ!
マイ:うん!

マイはドアから2歩下がり、ケイはガラスにパンチを食らわせ割る。割れて空いた穴から右腕を伸ばし鍵をアンロックし、ドアを開ける。ケイは助手席を乗り上げて少女の救出を試みる。
 少女は衝撃で打ったのか前頭部に傷があって血が流れている。着ている白のスーツは血で赤い水玉模様ができていた。そして、目を閉じていてピクリとも動かない。そんな少女をケイは運転席から引き出し助手席を渡って外に出すと身体を持ち上げてインプレッサの方へ持っていく。両手が塞がっているケイにマイも協力してインプレッサの後部の右側のドアを開けてケイは少女を後部座席のシートに寝かせる。

マイ:大丈夫かな・・・。
ケイ:知らね・・・。
マイ:あのカレラGT、あのまんまにしたらサツ動いてやばくなるよね。どーしよ・・・。
ケイ:それわ・・・ちょい待て。

突然閃いたケイはiPhoneを取り出して電話をし始めた。

ケイ:湾岸線でバトって相手のカレラGTが事故って・・・ああ、レッカーしてくれないすか?・・・あーはい。ヨロシクっす。

1分くらいの時間で通話は終了した。

マイ:誰?
ケイ:助っ人だよ。

その時、「コンッ!」という音が後部座席から響いた。

少女:いてっ。

首を起こして前頭部を右手で抑える。起きる勢いでロールバーに前頭部当たったようだ。

ケイ:オメェ、大丈夫かよ。
少女:・・・ええ、ここは?
マイ:ケイのインプ。
少女:ケイ?
ケイ:そう、俺がケイ。あーこっちわ彼女のマイ。
少女:・・・私の車は?
マイ:向こう。

マイは右の方向を指差す。少女はリアガラスから指差した方を覗く。すると左側を強く擦って大破したカレラGTが見える。

少女:で、何故ここまでしてくれるのかしら?そのまま無視して振り切って良かったのに。
マイ:チッ、ブスが。お礼も言えねーのか!
ケイ:テメェわ黙れ。
マイ:・・・くっ!

マイはインプレッサカーボンボンネットに腕を組んで座った。

ケイ:悪りぃな、こいつ性格悪りぃんだ。だけど、オメェを助ける事自体わ別に悪い事ぢゃないだろ?
少女:・・・見た目はヤンキーなのに優しいのね。
ケイ:・・・俺の先輩がオメェの車をレッカーするから。
少女:本当にお人好しね。
ケイ:あーオメェの名前聞いてなかったわ。名前なに?
二階堂優香:私の名前?私は二階堂優香。そう言えば貴方の苗字聞いてなかったけれどどちら様なのかしら?
ケイ:え?苗字?浜田だけど?
二階堂優香:浜田さんと言うのね?
ケイ:俺の事わケイでいいよー笑
二階堂優香:私は馴れ馴れしい行為は嫌いなの。それに貴方と親しくなるつもりもないから。
ケイ:・・・そっか。

カーボンボンネットに座るマイは二階堂とケイの会話を盗聴してさらに怒りのゲージが高まった。

ーつづくー