Highway of Night (Act.19)

 いつも通りの規則正しい7時の起床。ベットから降りたら歯を磨き、シャワーを浴びて、浴室から出たらアウトバストリートメントを髪の全体に馴染ませ、ドライヤーでドライし、ヘアアイロンで伸ばす。はい、ストレートヘアの完成。次はキッチンへ行き、冷蔵庫から牛乳パックを取り出してコップなどの容器に注がず直でラッパ飲みする。そんな事をやっていたら時刻はケイが迎えに来る8時。約束の8時が迫っている事に気づいた二階堂優香は急いでクローゼットを開けて服を選ぶ。浴室から全裸のままだったのだ。服を着ると、ちょうどいいタイミングでインターフォンが鳴った。

ケイ:優香ちゃーん、生きてるー?死んでるー?
二階堂優香:馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで頂けるかしら?それに私は死んでいない・・・今行くわ。

1分くらい経つと玄関の自動ドアが開き、二階堂優香が歩いてきた。ちょうど玄関先に白のGDBAが停まっていた。

二階堂優香:あのGDBFは・・・?
ケイ:あー俺、あれとこれで2台持ってて1日ごとに乗る車を替えてるんだ。まーとりあえず乗れって。

二階堂優香は助手席に乗る。するとケイも運転席に乗り、出発する。

二階堂優香:どちらもインプレッサでしょ。意味はあるのかしら。
ケイ:これわ4WDの350馬力であれわFR化してて600馬力。4WDもFRも乗れるよーにしてんの。
二階堂優香:・・・なるほど、群馬の豆腐屋みたいね。
ケイ:やめろ、出すんじゃねーよ。
二階堂優香:悪かったわ。ところで、これはSTIではないみたいだけど?
ケイ:よく気づいたな。
二階堂優香:メーターにSTIのロゴがないから。貧乏でお金が足りなくて買えなかったかしら。
ケイ:うわー貧乏人扱い、死ねー。

「死ね」、この言葉が出てきた瞬間に無意識に過去の記憶が光速で蘇る。・・・移動教室から教室帰ると先程とは一変して自分の机には「死ね」の文字が大きく書かれ、中に入っていた教科書やルーズリーフはビリビリに破かれて机の周りに落ちて、水で辺りが濡れている。そしてそれをただ見つめるしかない少女をクラスメイトはピエロの披露を眺めるように室内のあちこちでそれぞれ4、5人グループで固まって笑っていた。

ケイ:もしー?まぢで目が死んでるけど。
二階堂優香:・・・何でもないわ。
ケイ:・・・そっか。

 昨日とは異なるルートを走る。首都高を使わずに下の街道を使う。おまけに横浜という都市だから交通量も多い。助手席側の窓から外を眺めると、白バイに停められたタクシーや登校中の中坊が入口付近で煙草を吸いながら溜まっているコンビニ、ロードバイクで車道の端を走るサラリーマン、雑居ビルの壁を高い位置で塗装をする中途半端な金髪ロン毛のあんちゃん、信号が赤から青になった途端に車道を渡る人ごみ・・・といった横浜のいつも通りの日常が見える。

二階堂優香:あの金髪女のこと好き?
ケイ:マイのこと?そりゃー俺の彼女だし。愛してるよ?
二階堂優香:まぁ、ヤンキー同士お似合いね。
ケイ:・・・俺らヤンキー扱いかよ。
二階堂優香:どちらも金髪じゃない。
ケイ:はいはい、一度も染めたこともない奴お疲れー。
二階堂優香:染めるのがかっこいいとでも?
ケイ:そーだよ、で?何か?
二階堂優香:・・・へぇ笑
ケイ:オメェ、ぶっちゃけ友達いないべ。
二階堂優香:・・・いるし。
ケイ:うん、嘘だな。
二階堂優香:・・・。

しばらくすると小林の工場に着いていた。既にポンコツ屋からFCが届けられてガレージに置かれていた。何故か小林は慌ててスマホで誰かと話していた。

小林:・・・だから今すぐ来い!あのFCが俺の工場にあるんだよ!ちゃんとR-magicのフルエアロなんだよ!・・・あ。

小林が工場の駐車場に停まるインプレッサのボクサーサウンドに気づく。

小林:・・・とにかく今すぐ来いよ。
ケイ:どーしたんすか?
二階堂優香:このポンコツで慌てていたようだけど。
小林:・・・俺、このFCの元のオーナーを知ってるんだよ。
ケイ&二階堂優香:・・・?
小林:そいつわこのFCに乗ってる時に当て逃げされて・・・その衝撃で電柱に真っ直ぐ突っ込んで・・・死んだ。
二階堂優香:え?
ケイ:まぢかよ。
小林:その証拠にフロントバンパーは中心が真っ二つに割れてボンネットは大きく変形して中のエンジンなんて半分逝ってるだろ。

 ケイと二階堂優香は確認するようにFCのフロントを見つめる。改めて見ると言われた通り、電柱の爪痕と思われる大きな窪みがあった。ロータリーエンジンも鉄クズ同然だろう。
 近くから高いエンジン音がやってくる。これはホンダのV-TECのような車の高回転型エンジンではない、バイクだ。1台の黒のバイクがガレージの前まで来る。Kawasaki Ninja ZX-14R ZZR1400だ。
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そのバイカーは被っていたヘルメットを両手でとり、潰れた崩れた髪型をしている黒髪をそのまま気にせず、急いでこちらに向かってくる。そしてFCの前で立ち止まった。そのバイカーは首都高専門の走り屋で小林の親友である黒川カラスだった。

カラス:このFC・・・嘘だろ、これ。
小林:多分、お前の彼女だった加穂留ちゃんのFC3Sだよ。
カラス:・・・これを見つけた浜田君は何がしたいんだ?

全くの無実の罪であるケイの顔の方に振り向き、鋭くて罪を問うような残酷な目で睨んだ。

ーつづくー