Highway of Night (Act.7)

 季節が夏だったら朝焼けが空の向こうに広がっている時刻にケイはベットの上で起き上がった。起きてすぐにシャワーを浴び、バスタオルで髪や身体の水分を拭き取り、ドライヤーやヘアアイロンをかける。そして、ハードワックスを付けたらハードスプレーを噴射。電子レンジに入れっぱなしにしていたアジの開きを食い、コーラを飲んだら、ガレージへ向かいGDBFの方のインプレッサに乗り込む。起床してから30分が経った。早速エンジンに火を点ける。
 ケイのGDBFはガソリンと改造以外に維持費が掛からないため外見にも金が掛けられる。
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RAYSの銀色でピカピカなホイールにAQUAのフルエアロ、Varisのカーボンボンネットとカーボンウイング、そしてカーボントランクも着いている。ミラーもカーボンだ。マフラーはHKSの焼き入れチタンマフラー。普通だったらファッションだけで100万円以上のコストはするだろう。しかし、ケイはそんな真似はしない。わざわざ地元のポンコツ屋をあちこち当たるのだ。そうすると激安でパーツを手に入れられる。エンジンや足回りのパーツの半分もポンコツ屋から来ている。こうやってコストを抑えられるのだ。
 箱根は霧がよく発生する。ヘッドライトで灯しても霧で視界は良くない。長尾峠のクネクネしたコーナーをいくつか抜けると土産屋が見えてくる。そこの駐車場にあの青いS15と「連れ」がセルシオやISFが停まっていた。改めてそのS15を見るとBOMEXのエアロも着けていてシートもBRIDEのものに替えている。この車も相当なコストが掛かっている。

 「連れ」がレンを囲んでいた。

連れA:あれが浜田ケイだな。
連れB:オメェ勝てよ。勝たなかったら・・・あの娘は戻らないぞ。
連れC:ミカちゃんがどうなってもいいのぉ?
レン:・・・勝てばいいんすか。
連れB:分かってんじゃねーか。
連れC:頑張れよ!

と言って、レンの肩を叩く。

レン:・・・。

 事の原因を思い出していた。大切な幼馴染のミカの事だ・・・そいつの家は借金を抱えていた。ある日、チンピラ数人がミカを誘拐しようとした。ミカは必死に抵抗する。たまたま家の前を通りかかったレンは止めに入った。しかし、チンピラと言っても喧嘩にはある程度慣れている。それが数人に対し、高校生1人など無理に近い。レンが敵う訳なかった。ミカはレンの名前を何度も叫ぶが、チンピラは腹パンを喰らわせ黙らせる。結局、何もできなかったのだ。

 ある日、組の事務所に藁にもすがる思いで突っ込んだ。当然、事務所なんてチンピラやヤーサンが大勢で溜まっているから敵う訳もなかった。そしてレンも捕まり、身体をロープで縛られチンピラに囲まれた。そんな時に組の中では上の立場に立ってそうなヤーサンが言った。
ヤーサン:ミカちゃんを返して欲しければ俺らを楽しませろや。
レン:はぁ?
ヤーサン:そうだな・・・公道のレースはどうだ。
チンピラA:それは面白そうっすね!
チンピラB:いいですね〜!
ヤーサン:ははは、いいな?
レン:・・・ミカは返すんだろうな。
ヤーサン:約束しよう。
チンピラA:公道レースと言えば、ここら辺では浜田圭っていう走り屋が速いらしいっすよ。
ヤーサン:じゃーそいつと対決だ。お前さんの車はこっちが用意してやる。それで決まりだ。
レン:免許持ってねーし・・・。
ヤーサン:んなもん無免でもいいだろーが!!

そう叫ぶとレンの顔を蹴り飛ばした。


 そう、これは走り屋としてプライドを賭けたバトルなどではない。少しでも大切な幼馴染を守る為に機嫌をとる為に藁にもすがる思いで仕掛けたもはや無理ゲーなのだ。

 ケイは土産屋の駐車場に停め、車から降りてレンのもとへ向かう。

ケイ:(こいつら連れか?セルシオとかISFとか乗ってるみてーだけど、いかついな。笑)
レン:・・・始めるぞ。
  • ケイ:おう。

一方、チンピラは通話している。

チンピラA:お疲れ様です・・・はい、土産屋でお待ちします。失礼します。

通話が切れるとジャケットの内ポケットにスマホをしまう。

チンピラB:どうよ。
チンピラA:順調だ。
チンピラC:うししし・・・。

ケイ:(何だ、あいつら。なんか、おかしい。まぢで。)

ケイはそう思いながらチンピラが引いたスタートラインの前に車を移動させる。レンも同じく移動させるが、なかなか上手くラインの前に停められない。

チンピラA:馬鹿か!テメェ!!

何度か繰り返すとやっと停められた。

ケイ:(こいつわ初心者かよ。)

 その時、遠くの方から1台のワンボックスカーが来る。車種はハイエースのようだ。そのハイエースはゆっくりと土産屋の駐車場に入りスライドドアがこちらに向かうように丁寧に停まった。すると、スライドドアが開く。中にはロープで手足を縛られ、口はガムテープで封じられた1人の少女が居た。レンはそれに反応した。

レン:ミカ!!

ケイは確信した。

ケイ:(やっぱ、これわまぢでおかしい!)


ーつづくー