Highway of Night (Act.19)

 いつも通りの規則正しい7時の起床。ベットから降りたら歯を磨き、シャワーを浴びて、浴室から出たらアウトバストリートメントを髪の全体に馴染ませ、ドライヤーでドライし、ヘアアイロンで伸ばす。はい、ストレートヘアの完成。次はキッチンへ行き、冷蔵庫から牛乳パックを取り出してコップなどの容器に注がず直でラッパ飲みする。そんな事をやっていたら時刻はケイが迎えに来る8時。約束の8時が迫っている事に気づいた二階堂優香は急いでクローゼットを開けて服を選ぶ。浴室から全裸のままだったのだ。服を着ると、ちょうどいいタイミングでインターフォンが鳴った。

ケイ:優香ちゃーん、生きてるー?死んでるー?
二階堂優香:馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで頂けるかしら?それに私は死んでいない・・・今行くわ。

1分くらい経つと玄関の自動ドアが開き、二階堂優香が歩いてきた。ちょうど玄関先に白のGDBAが停まっていた。

二階堂優香:あのGDBFは・・・?
ケイ:あー俺、あれとこれで2台持ってて1日ごとに乗る車を替えてるんだ。まーとりあえず乗れって。

二階堂優香は助手席に乗る。するとケイも運転席に乗り、出発する。

二階堂優香:どちらもインプレッサでしょ。意味はあるのかしら。
ケイ:これわ4WDの350馬力であれわFR化してて600馬力。4WDもFRも乗れるよーにしてんの。
二階堂優香:・・・なるほど、群馬の豆腐屋みたいね。
ケイ:やめろ、出すんじゃねーよ。
二階堂優香:悪かったわ。ところで、これはSTIではないみたいだけど?
ケイ:よく気づいたな。
二階堂優香:メーターにSTIのロゴがないから。貧乏でお金が足りなくて買えなかったかしら。
ケイ:うわー貧乏人扱い、死ねー。

「死ね」、この言葉が出てきた瞬間に無意識に過去の記憶が光速で蘇る。・・・移動教室から教室帰ると先程とは一変して自分の机には「死ね」の文字が大きく書かれ、中に入っていた教科書やルーズリーフはビリビリに破かれて机の周りに落ちて、水で辺りが濡れている。そしてそれをただ見つめるしかない少女をクラスメイトはピエロの披露を眺めるように室内のあちこちでそれぞれ4、5人グループで固まって笑っていた。

ケイ:もしー?まぢで目が死んでるけど。
二階堂優香:・・・何でもないわ。
ケイ:・・・そっか。

 昨日とは異なるルートを走る。首都高を使わずに下の街道を使う。おまけに横浜という都市だから交通量も多い。助手席側の窓から外を眺めると、白バイに停められたタクシーや登校中の中坊が入口付近で煙草を吸いながら溜まっているコンビニ、ロードバイクで車道の端を走るサラリーマン、雑居ビルの壁を高い位置で塗装をする中途半端な金髪ロン毛のあんちゃん、信号が赤から青になった途端に車道を渡る人ごみ・・・といった横浜のいつも通りの日常が見える。

二階堂優香:あの金髪女のこと好き?
ケイ:マイのこと?そりゃー俺の彼女だし。愛してるよ?
二階堂優香:まぁ、ヤンキー同士お似合いね。
ケイ:・・・俺らヤンキー扱いかよ。
二階堂優香:どちらも金髪じゃない。
ケイ:はいはい、一度も染めたこともない奴お疲れー。
二階堂優香:染めるのがかっこいいとでも?
ケイ:そーだよ、で?何か?
二階堂優香:・・・へぇ笑
ケイ:オメェ、ぶっちゃけ友達いないべ。
二階堂優香:・・・いるし。
ケイ:うん、嘘だな。
二階堂優香:・・・。

しばらくすると小林の工場に着いていた。既にポンコツ屋からFCが届けられてガレージに置かれていた。何故か小林は慌ててスマホで誰かと話していた。

小林:・・・だから今すぐ来い!あのFCが俺の工場にあるんだよ!ちゃんとR-magicのフルエアロなんだよ!・・・あ。

小林が工場の駐車場に停まるインプレッサのボクサーサウンドに気づく。

小林:・・・とにかく今すぐ来いよ。
ケイ:どーしたんすか?
二階堂優香:このポンコツで慌てていたようだけど。
小林:・・・俺、このFCの元のオーナーを知ってるんだよ。
ケイ&二階堂優香:・・・?
小林:そいつわこのFCに乗ってる時に当て逃げされて・・・その衝撃で電柱に真っ直ぐ突っ込んで・・・死んだ。
二階堂優香:え?
ケイ:まぢかよ。
小林:その証拠にフロントバンパーは中心が真っ二つに割れてボンネットは大きく変形して中のエンジンなんて半分逝ってるだろ。

 ケイと二階堂優香は確認するようにFCのフロントを見つめる。改めて見ると言われた通り、電柱の爪痕と思われる大きな窪みがあった。ロータリーエンジンも鉄クズ同然だろう。
 近くから高いエンジン音がやってくる。これはホンダのV-TECのような車の高回転型エンジンではない、バイクだ。1台の黒のバイクがガレージの前まで来る。Kawasaki Ninja ZX-14R ZZR1400だ。
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そのバイカーは被っていたヘルメットを両手でとり、潰れた崩れた髪型をしている黒髪をそのまま気にせず、急いでこちらに向かってくる。そしてFCの前で立ち止まった。そのバイカーは首都高専門の走り屋で小林の親友である黒川カラスだった。

カラス:このFC・・・嘘だろ、これ。
小林:多分、お前の彼女だった加穂留ちゃんのFC3Sだよ。
カラス:・・・これを見つけた浜田君は何がしたいんだ?

全くの無実の罪であるケイの顔の方に振り向き、鋭くて罪を問うような残酷な目で睨んだ。

ーつづくー

Highway of Night(Act.18)

 ポンコツ屋と契約が成立し、翌日小林のトラックで取りに行き、工場に運ぶことにしたケイとマイはケイのGDBFで地元箱根へと二階堂優香を連れて行く。向かったのは箱根峠のエネオス、ケイたちの溜まり場だ。そこには既にGTウイングにフルエアロに水色のネオンの白の458に黄昏るマモルと、蛍光色でライムグリーンのRAYSを履かせてR-magicのフルエアロを着けた黄色のFDの横に立つアツコ、ほぼノーマルのエボ3のタイヤの山をしゃがみながら見つめるゴリラが居た。ケイはエネオスの事務所
の前に停める。

ケイ:二階堂さん来たよー!
マモル:そのコが優香ちゃんかー。よろしくぅー!
アツコ:優ちゃん、よろしくねー♪
ゴリラ:同じ走り屋同志仲良くしようぜ!
二階堂優香:お友達もロクなのがいないわね。
マモル&アツコ&ゴリラ:・・・え?
ケイ:あちゃぁ・・・。

 新しいクラスになったばかりの時期で初対面のクラスメイトにいきなり馴れ馴れしくディスると、例えそれがジョークだとしても相手の第一印象は悪くなる。第一印象は短時間で簡単に変えられるものではないし、相手も得はしないと思い、関わることもない。二階堂優香は3人と仲良くしようと、などとは思ってないのだ。

マイ:ケイ、やっぱ連れて来たのわ間違いだったんぢゃない?
ケイ:・・・。

マモルは1回は黙ったが、開き直る。

マモル:なに?もしかして、ツンデレちゃん!?え、ちょい、可愛いぢゃん!?俺タイプだわー。
アツコ:ちょ、マモルいきなりチャラ過ぎ〜。優ちゃん悪い表情してるよー。
ゴリラ:そうだ!マモルは馴れ馴れしいんだよ!
マモル:そーゆーゴリラこそ、その顔だから優ちゃん気分悪くしたんぢゃねーの!?
アツコ:ウケる笑笑
マイ:それは笑笑
ケイ:笑笑
ゴリラ:優ちゃん、クールで真面目で本当はイイ奴そうだから、そんな事は思はないでしょ。ねぇ、優ちゃん?
二階堂優香:・・・。
アツコ:あぁ・・・ゴリラの言った通り、クールで基本的に無口、なのかな?
マイ:まぁまぁ。
マモル:なんか、プライドがある的な?
ケイ:・・・そーだな、それだわ。
店長:何だ?新しい友達か?

エネオスの店長、あだ名はそのまま「店長」。愛車は赤のR32で昔は神奈川県中に名前が知られたかなりの走り屋だったらしい。

アツコ:あ、店長。この娘わ二階堂優香ちゃん。
マモル:首都高でバトって知り合ったんだって。
ゴリラ:二階堂さんは事故って新しい車を作るのケイとマイが手伝ってるって。
ケイ:マイわ嫌ってるけどね笑
マイ:ホントだよ!ヤダこいつ。
店長:まぁまぁ、そういうのもいいじゃないか。
マイ:良くない!
マモル:まーとにかく仲良く、な?優香ちゃん?
二階堂優香:・・・そうね。よろしく。

しばらくエネオスで溜まってみるが、二階堂優香は居心地が悪くてすぐに飽きてしまった。

二階堂優香:もう、帰りたい。
アツコ:えー早くない?
ゴリラ:せっかくここまで来たんだし。
マモル:俺たち、「ダチ」だろ?

「ダチ」という言葉がさっき知り合ったばかりで自分の事なんて何も知らない口から出てきた。

二階堂優香:・・・帰る。
ケイ:お、おう。

シーンとした空気が流れる。二階堂優香をインプレッサに乗せてケイは運転席に乗る。マイは二階堂優香と同じ空間に居たくない為に残る。ケイは窓から顔を出す。

ケイ:ぢゃーね。
マモル:優香ちゃーん!またねー!
ゴリラ:じゃーな。
アツコ:バイバーイ!
マイ:いってらー。

手を振っているとインプレッサは走り去った。

マイ:チッ、あのブス・・・。
アツコ:話したら面白いかなーって思ったら変な空気作ってるし。
ゴリラ:何かあるのかな?
マイ:何か・・・障害とか?笑 それしかないでしょ。
アツコ:しょーがい笑笑 ウケる笑 あーゆーのわ一生施設で暮らせばいいのに。
マモル:どーせ、自分カワイイーとか思ってるパターンっしょ。あーゆーブスわ。
アツコ:あーわかるー笑
マイ:それだねー笑

店長は陰で二階堂優香を叩く4人が不快だった。しかし大人として何も言えずレジの椅子に座っていた。



 二階堂優香の自宅は横浜のみなとみらいに建つ高級マンションだ。家賃も月100万は払っているだろう。ケイはマンションのロータリーでインプレッサを停めた。

ケイ:オメェんちここ?
二階堂優香:ええ、有難う。
ケイ:また明日な。迎えに行くから。
二階堂優香:・・・また明日。

二階堂優香はドアを開けたら降りて開けたドアを閉める。そしてヒールの音を鳴らしながら振り返る事なく真っ直ぐロビーへ向かった。

ーつづくー

Highway of Night (Act.17)


 翌日、まず3人はケイとマイの地元である神奈川県内の中古車販売店を当たってみる。そこはごく平凡なところで軽自動車やハイブリッド車など一般人にお勧めの車が目立つ。

ケイ:金わあるよな?
二階堂優香:ある程度はあるわ。
ケイ:ある程度ってどんくらい?
二階堂優香:予算は3000万円以内がいいわ。
ケイ:充分過ぎだろ。それわ。
マイ:あんたにはこれなんていいんぢゃない?

マイは二階堂優香にインサイトを勧める。
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マイ:低燃費でエコぢゃん?首都高とか走るの止めてこれで街中をドライブしたら?

ま  た  は  じ  ま  っ  た  。

二階堂優香:貴方こそ、運転しているところを見た事ないのだけれども、免許も持ってないのかしら。それで言える口かしら。それだったら自転車で楽しく走ったらどうかしら。維持費も掛からないわ。
マイ:は?免許あるし。R33乗りだし。何も知らねーカスがほざくんぢゃねーぞ?
二階堂優香:R33と言うと・・・あぁ、R32より車体が大きくなっただけで加速しないGT-Rの失敗作でもあり、日産の恥。そんな車にしか乗れない貴方は、可哀相に。笑
マイ:だから何も知らねーくせに語るんぢゃねーよ!オメェ乗った事ねーだろ!
二階堂優香:ええ、乗った事ないわ。そんな失敗作なんかに乗っても面白くもないし、時間の無駄。あまりにもつまらな過ぎて事故を起こしてしまうかもしれないわ。
マイ:あ"ぁ"?オメェのエンジン移植するベース探す方が時間の無駄だし。調子乗んな。黙ってインサイトにでm
ケイ:うっせーんだよ!!

ケイは2人の頭を両手でチョップした。

マイ&二階堂優香:痛っ!
ケイ:テメェら何しに来てんだコラァ・・・。
マイ:ご、ごめん。
二階堂優香:・・・。

今度こそは真面目にスポーツカーを探す。

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マイ:これわ?軽くて早いよ。
ケイ:確かに車重わ800kg台だけどエンジンが入んなくね。
二階堂優香:エンジンが入るスペースか・・・。

3人はディーラーの車を一通り見た。そして1台の車が候補に上がる。

ケイ:これだったら入るんぢゃね。俺これのトミカ持ってた笑
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二階堂優香:Z32・・・確かヘッドライトはディアブロGTが流用していたわね。
ケイ:どーよ?
マイ:オメェにわもったいn

ケイはマイの前頭部に拳骨を喰らわせて黙らせた。

二階堂優香:悪くはないわ。でも他のディーラーも見たい。
ケイ:おーけー。

次に3人は同じく神奈川県内のポンコツ屋に移動する。

二階堂優香:何ここ?ガラクタだらけじゃない。

そこは車のボディが積み上っていたりボンネットやトランクやドアなどで成り立つ山があったりしている。決して綺麗な光景ではない。しかし、エンジンやターボチャージャーだけは丁寧にコンテナの中で並べられている。普通に見ればただのゴミ処理場だが、使えるパーツが見つかれば低コストで手に入る為、チューナーにとってはこの城は「宝箱」だ。

マイ:ボディを見つけて1から組み立てるのもありだね♪
ケイ:そう!
二階堂優香:まぁ、それもありなのかもね。

早速、発掘作業に取り掛かる。

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マイ:なんか色々あんぢゃん笑
ケイ:えーと、FC3Sに、ブルーバードと?あと・・・
マイ:あ、S30Zぢゃん♪ それで狂おしく、身をよじるように走ったr
ケイ:止めろ。そのファンの皆様に潰される。ただでさえ、それと配達のついでに峠を攻める豆腐屋物語を混ぜた内容なのによー。余計にパクリとか思われるぢゃん?
二階堂優香:貴方が「豆腐屋物語」を出した時点でさらに悪化したと思うのだけれど。
ケイ:まーこまいのわいいぢゃん?
二階堂優香:細かくないし、だいたい貴方たちh
ケイ:あれ?向こうにもいいもんあんぢゃん。
マイ:ホントだー♪
二階堂優香:・・・まだ話は終わってないのだけれど。

ケイが指差す方にはまたFC3Sがあった。

マイ:えー?またFCー?
二階堂優香:でも、よく見たら・・・。

廃車だからボロボロに割れたり欠けたりして替えるしかないが、R-magicのフルエアロやGTウイングが着いている。ブレーキはEndlessのブレーキ、さらにブレーキの上を覗いてみるとHKSの競技用サスペンションも着いていた。

ケイ:すげぇ・・・足回りすげぇよ。
マイ:まぢだわ。まだ使えそうぢゃない?
オッサン:そのFC、最近来たばっかなんだよ。

作業員のオッサンがこちらに来る。

マイ:て、事わ最近事故ったばかり?
オッサン:それは違うみたいだ。事故を起こしたのは今から4年前だそうだ。
ケイ:結構いじってたみたいだけど?
オッサン:あんたら白井香を知らないのか?
マイ:白井香って・・・
ケイ:事故で死んだらしいけど神奈川県最強とか言われた女ドライバーだったっけ。
オッサン:そいつのFCがこいつらしい。
ケイ:は!?
マイ:嘘!?
二階堂優香:へぇ・・・決めたわ。私これにする。
ケイ:だな!
マイ:でも死んだ人の・・・
ケイ:マイ、幽霊とか信じてんの?笑
二階堂優香:性能的にも良さそうだしね。私も幽霊のような非科学的なものは信じないから。
ケイ:決まりだな。
二階堂優香:このFC幾らかしら?
オッサン:まぁ、スクラップにする手間も省けるし、お姉ちゃん綺麗だから5万円でいいよ。
ケイ:よっ、イケメン!
オッサン:ガハハハハ!
マイ:・・・あのZ32わ?
二階堂優香:FCの方が軽いし
マイ:・・・。

この軽くて調子に乗った決断が、残酷で重い運命に導くことになるとわ・・・二階堂優香は思わない。

ーつづくー

Highway of Night (Act.16)

 しばらく待つとレッカー車が来た。レッカー車からはスキンヘッドにバンダナを巻いた男が降りてきた。

ケイ:あ、小林先輩。
マイ:久しぶりです。
小林:よう、久しぶり。金髪にしたんだな。
ケイ:はい。
小林:にしても、このカレラGT・・・ヒドイな。それに早いところ片付けないとサツ来るしな。お前らも手伝え。
ケイ:うす。
マイ:了解。

ケイはカレラGTのフロントバンパーにレッカー車のワイヤーを引っ掛け、荷台の上に乗るマイはワイヤーを巻き上げる装置を起動させる。するとカレラGTはレッカー車の荷台に載った。二階堂優香はただそれを見つめて、小林はその作業工程を二階堂優香の横で監督していた。

二階堂優香:料金はおいくらかしら。
小林:同じ走り屋同士の仲間だろ!仲間は助け合うものだからな!
二階堂優香:・・・愉快ね。
ケイ:載せ終わった!
マイ:ぢゃーあとは移動だね!
小林:行くか!

小林はレッカー車を発信させ、ケイとマイと二階堂優香が乗るインプレッサも続いて後を追う。

二階堂優香:どこへ行くの?
ケイ:小林先輩の工場。
マイ:なんでこんな奴がケイのインプに乗るの?
二階堂優香:仕方ないからよ。それ以外に何かあるかしら。
マイ:なに?ナニナニかしらーとか言うの。お嬢様気取り?ウケるんですけど笑笑
二階堂優香:実際お嬢様ですが、何か。貧乏な田舎のヤンキーは可哀相ね。
ケイ:俺のインプで騒ぐんぢゃねーよ!騒ぐならこっから蹴り落とすぞ!コラァ!!

ついにケイまでキレた。この一言で2人の喧嘩は収まった。

10分くらい走っていると小林の自動車整備工場に着く。小林はガレージに荷台に載せていたカレラGTを降ろし、インプレッサは工場の駐車場に停まる。ケイとマイと二階堂優香の3人は降りてガレージの方へ行く。ガレージはそこら辺のコンビニの建物がすっぽり入る程広く、整備工場なだけに工具やパーツも揃えてあり、カレラGTの他に赤のR34やオレンジのJZA80がボンネットを開けたまま停まっていた。

小林:こりゃ直せねーわ。ボディは完全に大破してるし、ラジエーターも爆発してるが、エンジンもダメージがある。直す事は出来るが、新しく車買った方が安い。これは廃車だな。
ケイ:まぢか。高いのに。
マイ:ワーザンネン(ざまぁ笑笑)
二階堂優香:・・・。

二階堂優香は目が泣きそうだった。拳も握りしめて下を向いている。これにはかなりの愛着があったようだ。

マイ:・・・。

流石にマイもこれには何も言えない。

ケイ:なんとかなんねーの?
小林:直そうとするとエンジンは元の性能が蘇らないかもしれないし、ボディも歪んでるし、だからコストもすごく掛かる。
二階堂優香:・・・いいわ。もういいよ、廃車でいい・・・ありがとう。いい勉強になったわ。
ケイ:・・・新しい車探そーぜ。
二階堂優香:・・・は?
ケイ:例えば、このエンジン直して、ポンコツ屋とか中古車屋とかから車を探して移植するとかさ。
二階堂優香:いいセンスしてるわね。

二階堂優香は初めて笑顔を見せた。

ケイ:俺も探すの協力してやるし、先輩も協力しますよね?
小林:そうだ!俺は改造屋だからな。
ケイ:明日にでもベース探してに行こーぜ。
二階堂優香:貴方と2人で?
マイ:え?
ケイ:まー俺も暇だし。
二階堂優香:本当にお人好しなのね。
マイ:ケイ!うちも行くよ!
ケイ:オメェも?いいけど・・・。
マイ:2人きりなんて許せないから!
ケイ:ぢゃー3人で探すって事で決まりな。

ーつづくー

Highway of Night (Act.15)

 湾岸線はストレートが長く占めている。ここでは加速が見方する。軽さこそは軽量化しまくりのインプレッサが勝っても、パワーの話になると水平方向4気筒DOHCではV型10気筒DOHCカレラGTが相手だと普通に考えれば発生するパワーにかなり差があってキツイ。だが、1回気を許した少女はブースト圧を立て直すのにわずかなタイムロスをし、どんどん距離を離されていく。
 インプレッサは峠で鍛えられたライン取りで3車線を占領しながら走る大型トラック(バイロン)の群れをわずかな隙を見つけてはハイスピードで縫うように抜かす。

少女:並みのレベルじゃないわね・・・。

同じくラインを真似しながら縫うように走るが、群れを抜けた時にはインプレッサが10円玉の大きさに見えた。けれども、パワーはこちらが勝っているから離された距離を縮めていく。

少女:危ないなぁ。このインプは。

今度こそは余裕を見せずに本気でアクセルを踏み続ける。

マイ:ストレートが続いてるから危ないよ!

ケイの耳元で慌てて叫ぶ。

ケイ:うっせーな。んなもん分かってるわ!
マイ:車の差で勝とうとするなんてキタナイなぁ。

マイは喧嘩もタイマンでやる公平的な精神なためストレートでアクセル踏んだだけで抜かそうとするカレラGTをディスる。しかし、ケイは不快にさせる愚痴に聞こえてイラついた。

ケイ:ちょっと黙れ。
マイ:ご、ごめん・・・。

ストレートが長く続く為、ついにはインプレッサの真横に並んだ。中に乗っている少女はこちらに視線を送る。マイも敵視して喧嘩売るように睨み付ける。

ケイ:止めろよ・・・。

少女はあんな女に対して、心の中で軽蔑した。

少女:(なーに、アレ。田舎のヤンキーかしら笑笑)

そんな事を思っていたら、ついつい笑ってしまう。それを見た短気なマイはブチキレた。

マイ:嗚呼ァァァァァァァ!!ブッ殺す!!あのブスまぢしね!!
ケイ:・・・。

ケイはキレたマイを無視して黙ってバトルに集中する。それでも、カレラGTに抜かれる。

マイ:車がいいからっつって調子乗んぢゃねーぞ!コラァ!!

 ストレートは続くが、輸入品を運ぶ大型トラックや安全運転を心掛ける一般車のシケインも連続で続く。少女は大きくシケインを避ける度に300キロオーバーで走るカレラGTのアクセルを緩めてしまう。一方のケイはアクセル全開で突っ込みハンドルをなるべく曲げず、ほぼ真っ直ぐに突破する。慣れはこちらが上のようだ。すると、カレラGTとの距離が再び縮まってくる。少女はこれ以上踏んでも馬力の出ないアクセルペダルに余計に力を入れて踏む。
 既に両者はトップギア。これ以上の加速も互いに限界だ。カレラGTのトップスピードでまたインプレッサは置いていかれる。少女は冷や汗が止まらない。回転数はレッドゾーンの限界に留まったままで自らの首を締める。しかし、そんな事など気にしなかった。ついに離す為に慌て過ぎたカレラGTのV10は吐血する。エンジンの爆発とともにラジエーターも破壊され飛び散ったオイルは後ろのインプレッサのフロントガラスにゲリラ豪雨の様に降り注ぐ。

ケイ:!?
マイ:え?

爆発でリアのサスペンションも折れ、自由なコントロールができないカーボンファイバーの塊と化したカレラGTは強引に左に持っていかれる。少女はブレーキを踏むが、もう遅い。かなりのスピードでガードレールを強く擦り、ボディの左半分が破壊される。かなりの衝突で速度は殺される。インプレッサは事故しているカレラGTを抜かすがブレーキを踏み、様子を見る為にカレラGTの50メートル先の道端に停車させる。そしてバックで大破したカレラGTの目の前に寄せる。ケイとマイは急いで降りてカレラGTのドアへ向かう。ケイが右側のドアを開けようとするが、開かない。

ケイ:割るぞ!
マイ:うん!

マイはドアから2歩下がり、ケイはガラスにパンチを食らわせ割る。割れて空いた穴から右腕を伸ばし鍵をアンロックし、ドアを開ける。ケイは助手席を乗り上げて少女の救出を試みる。
 少女は衝撃で打ったのか前頭部に傷があって血が流れている。着ている白のスーツは血で赤い水玉模様ができていた。そして、目を閉じていてピクリとも動かない。そんな少女をケイは運転席から引き出し助手席を渡って外に出すと身体を持ち上げてインプレッサの方へ持っていく。両手が塞がっているケイにマイも協力してインプレッサの後部の右側のドアを開けてケイは少女を後部座席のシートに寝かせる。

マイ:大丈夫かな・・・。
ケイ:知らね・・・。
マイ:あのカレラGT、あのまんまにしたらサツ動いてやばくなるよね。どーしよ・・・。
ケイ:それわ・・・ちょい待て。

突然閃いたケイはiPhoneを取り出して電話をし始めた。

ケイ:湾岸線でバトって相手のカレラGTが事故って・・・ああ、レッカーしてくれないすか?・・・あーはい。ヨロシクっす。

1分くらいの時間で通話は終了した。

マイ:誰?
ケイ:助っ人だよ。

その時、「コンッ!」という音が後部座席から響いた。

少女:いてっ。

首を起こして前頭部を右手で抑える。起きる勢いでロールバーに前頭部当たったようだ。

ケイ:オメェ、大丈夫かよ。
少女:・・・ええ、ここは?
マイ:ケイのインプ。
少女:ケイ?
ケイ:そう、俺がケイ。あーこっちわ彼女のマイ。
少女:・・・私の車は?
マイ:向こう。

マイは右の方向を指差す。少女はリアガラスから指差した方を覗く。すると左側を強く擦って大破したカレラGTが見える。

少女:で、何故ここまでしてくれるのかしら?そのまま無視して振り切って良かったのに。
マイ:チッ、ブスが。お礼も言えねーのか!
ケイ:テメェわ黙れ。
マイ:・・・くっ!

マイはインプレッサカーボンボンネットに腕を組んで座った。

ケイ:悪りぃな、こいつ性格悪りぃんだ。だけど、オメェを助ける事自体わ別に悪い事ぢゃないだろ?
少女:・・・見た目はヤンキーなのに優しいのね。
ケイ:・・・俺の先輩がオメェの車をレッカーするから。
少女:本当にお人好しね。
ケイ:あーオメェの名前聞いてなかったわ。名前なに?
二階堂優香:私の名前?私は二階堂優香。そう言えば貴方の苗字聞いてなかったけれどどちら様なのかしら?
ケイ:え?苗字?浜田だけど?
二階堂優香:浜田さんと言うのね?
ケイ:俺の事わケイでいいよー笑
二階堂優香:私は馴れ馴れしい行為は嫌いなの。それに貴方と親しくなるつもりもないから。
ケイ:・・・そっか。

カーボンボンネットに座るマイは二階堂とケイの会話を盗聴してさらに怒りのゲージが高まった。

ーつづくー

Highway of Night (Act.14)

 やけに機嫌が良い少女は今日も独りで首都高をうろつく。このゲンバラ社の白きCarrera GTに乗りながら。
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婚約者だった成志は先程自ら起こした単独事故で細かいところまで神経質なパパからの信用を失い、結婚の約束は抹消され、関わらなければならない理由も無くなった。その事をついさっきスマホの通話で聞かされ、途端にスッキリ爽快な気分で溢れた。そんなハイテンションの勢いでアクセルを強く踏み、湾岸線に合流する。スピードメーターは200キロを越していることを示している。一般車両のインサイトやカイエンがシケインと化す。迫るとS字にそって避ける。
 一方、ケイとマイは一休みし終って出発していた。再び大井PAの出口から湾岸線に合流する時、1台の車が後ろからものすごいスピードで走ってくる。

マイ:あれ速くない!?
ケイ:なんだ?あれわ・・・車種わ・・・。

その車わ合流したばかりで90キロで走るインプレッサを、まるでカラーコーンを避けるかのように車線変更で避ける。そして、そのまま追い越す。

ケイ:カレラGTだわ。しかもゲンバラ・・・。
マイ:まぢで!?

少女は青と黒のツートンカラーのインプレッサに見覚えがあった。

少女:あれって・・・。

成志とのきもいデートの時にバトルして逃げ切った、あのインプレッサだと確信した。気付くとアクセルを緩め、ブレーキを踏んだり、緩めたり、踏んだりを繰り返して減速する。するとインプレッサとの距離が縮まっていく。

ケイ:ん?カレラが減速してる?
マイ:え?
ケイ:テールライトが点滅してるんだけど。
マイ:ア・イ・シ・テ・ルのサインぢゃない?
ケイ:ドリカムかよ笑笑
マイ:でも、これ、このインプに意識してるのかなー。
ケイ:まーそれわあるかも。パッシングしてみる?
マイ:したらー?

ケイはパッシングを試みる。少女はパッシングされるとアクセルを再び踏む。

ケイ:あ、やる気だわ。

ケイもカレラを追う。パッシングは走り屋の世界では喧嘩売るのと同じ。バトルの始まりだ。

マイ:このインプわ550馬力だっけ?
ケイ:そーだけど。
マイ:うーん、カレラGTって612馬力なんだよね・・・で、ゲンバラだから・・・
ケイ:詳しいぢゃん
マイ:NEED FOR SPEEDで出てた

少女はインプレッサの様子を見る。どのくらいのパワーがあるのかを試しているのだ。

少女:並みのインプよりはパワーがあるかな・・・よく加速する。

甘い目で見ていたその時、無駄にアクセルを緩めていた為にインプレッサに抜かれた。

少女:あ!しまったー。油断した。

そう呟きながら下を向いた。その時に窓越しに視線を感じた。インプレッサに乗る2人の男女がこちらを見ていたのだ。

マイ:意外ー。女の子ぢゃん。
ケイ:おう、しかも可愛いー♡
マイ:・・・ケイ。

マイはケイを死んだゴキちゃんを見るような目で見つめた。

ケイ:だって可愛いぢゃん。
マイ:・・・ケイのバカッ!!

ーつづくー

Highway of Night (Act.13)

 事故現場を抜けると渋滞は無くなりスムーズに進める事ができるようになり、加速してこの首都高を攻める事でさえもできる程になった。S字カーブが迫るとサイドブレーキで後輪を一時ロックさせ、あとはパワースライドで150キロというスピードを維持したままドリフトで曲がり通り抜ける。ケイの表情はとても楽しそうだった。

ケイ:首都高っておもしれーな。峠の走り屋なんて辞めて首都高をホームにしよっかなー。
マイ:・・・それわダメ。ケイわ箱根の有力な走り屋なんだよ?ケイが居なくなったらうちらの箱根をどーするの?

マイはケイの何気無い一言にマジになった。

ケイ:うそうそ、冗談だよ

走り屋もヤクザと同じでそれぞれのシマを狙い合う。従ってそれぞれの「キング」や「ナイト」が狙われる。マイがマジになるのはケイが箱根の有力な「ナイト」であり、同じ箱根の戦友だからでもある。

ケイ:だって俺わ箱根の「ナイト」だもんなー笑
マイ:自分で言うんだ。

銀座のトンネルを抜け、レインボーブリッジに入った。マイは窓から外の夜景を眺めた。
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マイ:きれーい。
ケイ:だな。

夜景を眺めているとレインボーブリッジの端まで来てしまった。有明JCTを曲がり湾岸線に入る。合流した途端にケイはアクセル全開で飛ばす。

マイ:ひゃっほーい!笑笑

マイが壊れた。Gの影響か、それよもハイスピードの影響かは不明だが、脳みそのどこかがバグって、リミッターが外れた。

ケイ:(マイが壊れた・・・。)

しかしケイはお構いなしにアクセルを踏み続ける。速度は200キロを越した。

マイ:峠ぢゃーこんなの無いね!
ケイ:だろ?

お台場の巨大な球体を担いだテレビ局の前を通りトンネルに入る。

マイ:あはははははは笑笑
ケイ:え・・・?

ケイはいきなり笑い出すマイにビビりながらもハンドルとペダルに集中する。速度は300キロに達した。ハンドルを掴むケイに対して、何も掴んでないマイはGに押されてパケットシートにたそがれる。

マイ:やっぱ峠ぢゃーこんなの無いね!

マイは大事な事なので感想を言った。だが、ケイは何も返さない。いや、いきなりイカれたマイに驚いて返せないのだ。加速は305キロくらいで上がらなくなった。マイはそれを示しているスピードメーターを遠くから覗いた。

マイ:これが限界?
ケイ:まーな。

マイがまともな発言をしたから、ケイが返せるになった為にコミュニケーションが復活した。

お台場のトンネルを抜けるとブレーキを踏み、一気に3桁から2桁に減速する。そして、トンネルを抜けてすぐの大井PAの入口に入る。

ーつづくー